帝京大学リハビリテーション科 栢森良二
40年前に精神安定剤として使われたサリドマイド剤は、世界中にサリドマイド胎芽病を発生させ、悪魔の薬として忘れ去られました。
ところが、1998年米国FDAでサリドマイド剤が、ハンセン病やAIDS特効薬として認可されました。さらに副腎皮質ホルモンに代わる、副作用のない免疫抑制剤として、広範な領域で臨床治験が行われています。
最終月経35~50日の間に妊婦がサリドマイド剤を服用した場合、サリドマイド胎芽病が発生します。サリドマイドの免疫抑制や血管新生抑制作用によって、上肢では橈側列の欠損や形成不全が生じ、脳幹では第6、7、8脳神経の形成不全が生じます。
1961~62年に発生した日本のサリドマイド胎芽病認定患者は309人です。このうち、上腕レベルの欠損あるいは著しい形成不全型の Phocomelia 群は39%を占めています。前腕レベルの欠損あるいは形成不全型の clubhand 群は、42%を占めています。 さらに欠損が聴器顔面に限定される上肢正常群は、23%を占めています。
【対象と方法】
1989年から1998年まで、直接検診をおこなった72名のサリドマイド胎芽病患者(男33名・女39名)、 phocomelia 群29人、 clubhand 群31人、上肢正常群12人について、身体所見、X線検査、さらに手のしびれに対して電気生理学的検査を実施しました。40歳を迎えるサリドマイド胎芽病患者の痛みと運動器の問題点について調べました。
【結果】
痛みの部位について
- phocomelia 群では、
肩・上肢19人(45%)、背中7人(17%)、手6人(14%)、
股・膝5人(12%)、腰痛症4人(10%)、頭痛1人(2%)
であり、肩・上肢の痛みが圧倒的に多い。 - clubhand 群では、
肩・上肢8人(26%)、手17人(55%)、腰4人(13%)、
股1人(3%)、頭痛1人(3%)
であり、手のしびれが多くなっています。 - 欠損が聴器・顔面に限定される上肢正常群では、
顔面2人(22%)、腰3人(33%)、肩上肢2人(22%)、
手1人(11%)
であり、「顔」、「腰」、「肩上肢の」の痛みが、均等にありました。
身体的特徴について
- 上肢正常群では、欠損は聴器・顔面に限定しており、耳介欠損、難聴、顔面神経麻痺、 Duane 症候群を合併していました。Duane 症候群は、眼球の外転障害、内転眼球の後退と眼裂狭小などの徴候があり、病態は外転神経核の形成不全に伴う動眼神経の迷入支配と考えられています。
- phocomelia 群の身体所見の特徴
- 上肢帯から上腕にかけて筋の著しく低形成があります。
- 肩脱臼があり、
- Round back 亀背が12/29(40%)に認められています。
- clubhand の身体所見の特徴
- 前腕から手にかけて、橈側の骨格および筋は低形成になっています。
- さらに橈側内反手で、母指欠損あるいは低形成を合併しています。
- 比較的健側上肢の腱鞘炎や手のしびれが合併していました。
- 手のしびれを訴えた24/33症例(2症例が片側性 phocomelia 群)に対して電気生理学的検査を実施しました。このうちの12症例が手根管症候群と確認されました。
手根管症候群について
12/24症例50%が手根管症候群と確認されています。術中の観察では、手根管が骨格低形成のために狭く成っていますが、正中神経は正常の大きさ、むしろ比較的巨大、扁平化しております。
【結語】
1998年米国FDAの認可によってサリドマイドがハンセン病やAIDSに使われるようになり、さらにRA、各種の癌、糖尿病性網膜症、黄斑変性症の治験薬として広範に使われてきています。新たなサリドマイド薬害をどのように防止するか、いま問われています。
第36回日本リハビリテーション医学会(1999年5月20日)にて報告