帝京大学リハビリテーション科 栢森良二
はじめに
前回はサリドマイドの患者さんには、肩、上肢、あるいは手の痛みが、20~30歳を過ぎた頃から出現してくることが多いという話をしました。この主な原因は、骨と同様にそこに付着している骨格筋も萎縮しているために、萎縮している筋の使い過ぎによる疲労が痛みを引き起こしている、筋の過用症候群と言えるものでした。
「手のしびれ」を訴える数人の検査をしました。上肢の神経の電気生理学的検査です。この神経伝導検査の結果は、手根管症候群という異常を呈していました。
【手根管症候群の症状】
手根管症候群は手関節で横手根靱帯の下に走行している正中神経が圧迫されるために生じるもので、感覚、運動、さらに自律神経障害による症状が出現します。
臨床症状として以下のものが挙げられます。
- 手関節、手、手指のしびれ感と痛み
- しびれ感、痛みの夜間増悪
- しびれ感、痛みは手を振ることによって軽減する
- 痛みが、上肢、肩、肩甲帯に及ぶことがある
- 編物、大工仕事、絵をかくなどの手作業で症状が悪化する
- 筋力低下、手の巧緻性の低下
- 朝の手指のこわばり(慢性関節リウマチと間違え易い)
【手根管症候群の原因】
一般的な事柄として、手根管症候群の頻度は、女が男より多く、その割合は7:3になっています。患者の半数は両側性に発生しています。40~60歳に最も多い。その原因は、慢性関節リウマチ、関節変形などによって手根管が狭くなるような病態や、糖尿病や腎透析患者など多発ニューロパチーを合併しており、神経が易損傷状態になっている場合もあります。さらに内分泌疾患や血液疾患でも手根管症候群は起こります。しかし明確な原因がなく、いわゆる特発性の手根管症候群が最も多い頻度になっています。手根管内の非特異的な腱鞘炎が正中神経の圧迫の原因といわれていますが、いまだ証明はありません。
女が男よりも多いという他に、もう一つの特発性の手根管症候群の因子として、手の活動の質と量が関連しています。利き手側の方が非利き手側より頻度が多くなっています。手関節屈曲や母指と他の指とのピンチによって、手根管内の圧は上昇し、しかも正中神経は横手根靱帯の間に押しつけられ、屈筋腱と横手根靱帯帯の間に圧排されます。このために手作業によって手根管症候群の症状が出現したり、増悪することになります。逆に、手を振り動かしたり、手の肢位の変化によって症状は軽減することがあります。
【電気生理学的診断】
手根管症候群の診断において、主訴として手の痛み、しびれなどの感覚異常があり、手関節を叩打するとしびれ感が母指、示指、あるいは中指に走る徴候、あるいは手指の感覚障害は主観的なものであります。できるだけ主観的な要素を排除し、重症度を評価するために、客観的な神経伝導検査が必要になります。電気刺激を用いるために、検査には多少の痛みや不快感等が伴いますが、この検査によって手根管症候群の確定診断ができます。
【なぜサリドマイドに手根管症候群が合併するのか】
片側の橈側内反手が重度のために、より健側の手を酷使する母指などを含めた橈側欠損があり、手根管空間が減少しているなどの因子が加わることによって、手根管症候群が合併するのではないかと考えられます。
しかし、現在まで検査した数が少ないために、「サリドマイドで手根管症候群の頻度が多い」という事実は実証されていません。今回のいしずえアンケートに、悩み、困っている事例を記入していただき、今後、機会がありましたら、帝京大学リハビリテーション科で神経伝導検査をすることをお願いします。
「いしずえ」第208号(1994年3月25日発行)掲載